聖水と制水を間違え、人助けをしたつもりが、逆に怒りを買うはめになり、さらには催眠術を使って束の間のハーレム天国から訓戒と停学処分になったハチだが、今回は……。

「今度こそ……今度こそ、モテモテになるんだぁ!!!」

虚しい欲望を口ずさみながら、雄たけびをあげていた。

「何々………『高いところからスカイダイビング』だとぉ!?」

ハチが読む本に書かれているのは、かなりえげつない内容だった。

何時ものように間違っている内容だった。

いや、ある意味では正しいのかもしれないが。

高いところから魔法が使えない者が飛び降りれば……ということだ。

間違っても、これの為に実際に行動を起こしたようなものはまずいない。

大方、そこで怪しいと気付くのだ。

だが、ハチの場合は……

「よぉし! やってやろうじゃねえか!!!」

すっかり信じ切ってしまい、やる気満々に部屋を飛び出した。

………

……



所変わって、瑞穂坂学園の屋上。

そこに一人の青年……ハチの姿があった。

「俺は強い……俺は強い!」

まるで自己暗示するように、ハチはつぶやく。

「行くぞ! アイ、キャン、フライィ!!!」

どこぞでネタとして取り上げられているような言葉を叫びながら、ハチは飛び降りた。

「うおぉぉぉぉ!!!」

そして、そのまま重力に従って落下していく。

「って、どうしてこれがモテることにつながるんだよ!?」

ようやくおかしいことに気付いたハチだが、もはや後の祭り。

「と、止まれ!? とまってくれぇぇええ!!!」

どんどんと近づく地面に、ハチはそう叫びながら目を閉じた。


――この日を境に、ハチの姿を見た者は誰もいなくなった。

屋上に残された一冊の本は、風に捲れ関係のないページが拡げられていた。

そこには『モテないあなたに最大の試練を与えましょう。別世界の恐怖の物語を』と記されていた。

………

……



「あれ? ここは……」

ハチは、気が付くと真っ白な空間に立っていた。

上を見れば清々しい青空が広がっている。

だが、それだけだった。

周りには何もない。

誰もいない空間だった。

「どういう事だよ? これ」

ハチは、茫然と立ち尽くす。

だが、ハチは一言だけ口にすることが出来た。

「ちっくしょう!!!」

その叫びは、真っ白な空間に響き渡った。

謎の空間を訪れたハチ。

例えどのような状況に立たされても、ハチの野望……もとい挑戦は、まだ続く。 inserted by FC2 system